新聞でも報道されましたが、新市民会館及び市役所を旧競馬場跡地に移転し、複合施設にするという足利市の方針が決定しました。
理由は、工期が最短、地盤も比較的強固、複合化によるコスト縮減効果が最も大きい(20億円減)という点です。
これまでの議論の流れと私の考えについてご説明いたします。
記事作成日:2025/9/26
【目次】
市の方針が決定するまでの経緯
時系列で出来事を追う
今後の流れ
理事会で提出した現市役所案
【市の方針が決定するまでの経緯】
新市民会館及び市役所の建替えについては、足利市議会内に設置された『公共施設建設・整備検討特別委員会』の理事会で主に議論されてきました。
私が理事として特別委員会に参加したのは、2023年8月からです。
それまでの間に、すでに「新市民会館」の基本構想は決まっていました。
新市役所の基本構想策定に向けて、『公共施設建設・整備検討特別委員会』では全議員にアンケートを実施しました。その時の結果は、各議員の地元を優先するような内容でした(河南地区の議員であれば、市民プラザの場所に複合化するなど)。
この時はまだ議会として候補地を決める段階にはなかったため、どこに建てる場合であっても、交通手段やバリアフリーなどの条件を提言しました(2023年11月20日、22日)。
それからしばらくの間は、市の当局にも動きがなく、いったん、市民会館及び市役所の建替えの議論は保留し、理事会では主に集会所、公民館の集約について議論がなされていました。
2025年6月になり、どうやら当局に動きが出てくるかもしれないということで、先に議会から意見を提言するため、候補地や複合化についても意見を集約することになりました。理事会の議論と議員全員のワークショップ、全体会の議論を経た結果、賛成多数で競馬場跡地に複合化する案を市長に提言することになりました。提言書には、水災害に配慮する、跡地活用を早くやる等、各議員の要望も添付資料として追加されました(2025年9月1日)。
市議会からの提言を受け、市は正式に競馬場跡地での複合化に基づき、基本計画を策定していくことを決定しました(2025年9月26日)。
どこに市役所や市民会館を建設するかは、市長(当局)の権限です。議会は提言を行う立場にあり、基本計画そのものを承認・決議することはありません。今後は、計画に基づいて個々の事業について議会で審議していくことになります。
なお、一度議会全体で提言を取りまとめた以上、個々の議員が反対していても、特段の事情がない限り議会の意思に従うのが原則です。この点について、市民の皆様には「なぜ意見を覆せないのか」と思われるかもしれませんが、議会の基本的な仕組みとしてご理解いただければと思います。
今後は、市が開催するワークショップや市民説明会、パブリックコメントなど、市民の皆様が直接意見を届けられる場が予定されています。ぜひ積極的にご参加いただき、ご自身の声を市に届けていただければ幸いです。
【時系列で出来事を追う】
「足利市」とあるのは、市の仕事です。
「市議会」とあるのは、市議会での議論の内容です。
役割分担が異なることを意識しつつ、ご覧いただければと存じます。
2023年2月 足利市
新市民会館の基本構想を策定
候補地については、市民プラザ又は競馬場跡地と記載。規模については、大ホール1,200人~1,500人、小ホール300人程度でまとまる。
2023年11月22日 市議会から提言
候補地については明言せず、複合化の検討は必須、交通手段やバリアフリーなどの条件を提言。
【市長に提言を提出しました!】
11月22日に、議長を除く全議員で構成する公共施設建設・整備検討特別委員会において決定した足利市本庁舎等整備基本構想案に対する提言を、議会として議長から市長に提出しました。#足利市 #足利市議会 pic.twitter.com/7B3CjS9QYb— 足利市議会 (@ashikaga_gikai) November 22, 2023
2023年12月 足利市
新市役所の基本構想を策定
候補地については、現在地周辺又は競馬場跡地と記載。条件については、①安全性・防災拠点機能の強化、②誰でも使いやすいバリアフリーな施設、③環境配慮と経済性の両立、④柔軟性・可変性の確保、⑤利便性の高い立地選定、⑥複合化や先進的整備手法の導入について記載。
2024年7月19日 足利市
(仮称)新足利市民会館及び足利市役所本庁舎等の整備に関するサウンディング型市場調査結果の公表について
市民会館及び本庁舎等の整備方針を検討するに当たり、3つの候補地について民間活力導入の可能性や事業手法、課題等を把握し、民間事業者の皆様の参入意向を確認するため、幅広く意見・提案等を募るサウンディング型市場調査を実施した。→結果はこちら
2025年6月23日 市議会
第17回 公共施設建設・整備検討特別委員会理事会
今後の議論の進め方(ワークショップの実施、ショッピングセンターでの市民へのゲリラアンケート実施等)について検討。
2025年7月4日 市議会
第17回 公共施設建設・整備検討特別委員会理事会
今後の議論の進め方(ワークショップの実施)について検討。
2025年7月8日 足利市
( 仮称)新足利市市民会館及び市役所本庁舎等整備に向けた検討業務業務報告書を公表
3つの候補地で、単独建設の場合、複合化する場合のそれぞれのメリット、デメリットが示された資料 →結果はこちら
2025年7月 足利市
仮称)新足利市民会館及び市役所本庁舎等整備基本計画策定市民検討委員会の設置
都市計画等の専門家及び公募で選出された市民検討委員会による議論がスタート。
2025年7月15日 市議会
第18回 公共施設建設・整備検討特別委員会理事会
今後の議論の進め方(ワークショップの実施、理事会案の作成)について検討。
2025年7月18日 市議会
公共施設建設・整備検討特別委員会全体会でワークショップを実施。
競馬場跡地で複合化案が多数、ただし、条件として水災害対策、跡地活用についても言及。
2025年8月7日 市議会
第19回 公共施設建設・整備検討特別委員会理事会
競馬場跡地での複合化が望ましいとの正副委員長案の提案。議論の末、各会派持ち帰り。
2025年8月18日 市議会
第20回 公共施設建設・整備検討特別委員会理事会で、競馬場跡地での複合化が望ましいとの正副委員長案を賛成多数で可決(現市役所案で反対は1のみ、)。
2025年8月20日 市議会
公共施設建設・整備検討特別委員会全体会で理事会案を賛成多数で可決(※全体会において理事は表決に参加せず)
2025年9月1日 市議会
競馬場跡地での複合化が望ましいとする提言書を市長に提出。
→下野新聞の報道
【市長に提言を提出しました!】
8月20日に、公共施設建設・整備検討特別委員会において決定した「新足利市民会館及び市役所本庁舎等の整備方針に関する提言」を、9月1日に議会として議長から市長に提出しました。#足利市 #足利市議会 pic.twitter.com/7KJVon1RlL— 足利市議会 (@ashikaga_gikai) September 1, 2025
2025年9月20日 新聞報道
市が競馬場跡地で両施設を複合化して整備する方針を固めたとの新聞報道。
→下野新聞(有料記事) ※市ではまだ決定前
2025年9月26日 足利市
市が競馬場跡地で両施設を複合化して整備する方針であることを公表。
【今後の流れ】
※今後の予定は全て未確定です。
2025年7月~市民検討委員会で議論(全8回)
2025年10月~市民ワークショップ実施(全3回予定)
あわせて、現市役所跡地活用の検討を開始。ただし、建替えが完成するのは
早くて7~8年後であるため、今から将来のニーズを正確に見極めるのは困難
です。そのため、サウンディング調査(民間活力導入の可能性や事業手法を
探る調査)を進めつつも、具体的な活用方針の決定は新庁舎完成の前後にな
る見通しです。)
2026年? 市民説明会(複数回予定)、パブリックコメント実施
2026年10月 基本計画策定
2028年度 早ければ建設に着手?
2031~2032年 早ければ新市民会館及び新市役所の完成?
【理事会で提出した現市役所案】
会派内で意見の統一は叶いませんでしたが、私はこのような案を提出しました。
※補足の部分は当日入手した資料を元に口頭で追加した部分を含みます。
【結論】
・市役所は現庁舎敷地に複合化すべきである。
・競馬場跡地での新築は、防災・都市計画・財政・総合的なコストの観点から直ちに賛成しかねる。
・物価や耐震を理由とした拙速な決定ではなく、学校再編・跡地活用・DX進展を踏まえた市全体のグランドデザインを明示した上で整備方針を判断すべきである。
【基本的な考え方】
複合化の必要性や市案の財政面、工期の短縮などの優位性は理解するが、正直なところ、それ以外の情報が少なすぎて検討業務の資料から候補地を選定するのは困難である。
中心市街地を含む都市全体のグランドデザインが不明確なままでは、市民生活や経済への長期的影響を見極められない。
そこで、検討業務の資料及び候補地選定に必須と思われる条件を解釈した結果、以下の通りの結論になった。
- 現市役所に複合化すべき理由
(1)まちづくりとの整合性
中央地区・大日西地区の区画整理やシンボルロード整備など、これまで積み重ねてきたまちづくりの方向性と一貫性を保てる。
(2)行政機能の集約性
消防本部、子ども家庭センター(保健センター内)をはじめとする既存の行政施設と可能な限り近接して配置することで、防災・災害対応の拠点機能を強化でき、行政サービスの利便性に資する。
(3)立地の安全性
現庁舎は水災外のリスクが相対的に低いため、防災拠点として優位である。
→ハザードマップ
(4)跡地活用の不透明性
現市役所跡地の利活用構想が何も示されていない。サウンディング型市場調査では民間活用が難しいとの結果もあり、公共施設が適切とされている。
しかし、市役所・市民会館を建設した後にさらに公共施設を整備するとなれば、財源負担や市民の反対から早期の実現性は低いと考えられる。
2、待つことのメリット
(1)けやき小再編の可能性
少子化に伴う学校再編の中で、けやき小学校跡地を含めれば、現庁舎敷地に複合化する余地が広がる。
(2)DXの進展
行政のデジタル化により、将来は庁舎そのものを縮小可能となり、今拙速に大規模な建物を建てるより柔軟性を確保できる。
3、現行案の問題点
(1)物価高騰を理由にした拙速な判断
競馬場跡地に新築しても今から完成まで早くて7年かかると聞いている。
その間の耐震性の問題の検討がなされていない。既存施設への分散移転(元足高跡地・さいこうコミュニティセンター等)で一定期間対応可能である。にもかかわらず、代替施設の耐震性や内装工事にかかる費用を初めから「検討外」としていること自体、競馬場跡地に建替えありきの姿勢に見える。
(2)競馬場跡地のトータルコスト不透明
盛り土、周辺道路整備、インフラ更新、さらには新駅建設の可能性など、建物以外の工事やコストが示されていない。これらを含めた工期や総事業費を明確にしないまま「最も安い案」とするのは説得力を欠く。
(3)立地の安全性
競馬場跡地は、氾濫流の区域内にあり、万が一の場合には一発でアウトになる可能性がある。盛り土をしても「市役所を建てるにふさわしいのか」という違和感が拭えない。また、緊急時に災害対策本部として機能しない可能性があるが、副災害対策本部の検討が不明。
補足:なお、足利赤十字病院のような建物が土手沿いに設置されているので安全性に問題はないという意見もありうる。しかし、2011年の足利赤十字病院建設当時と比べて 2024年改定のハザードマップでは浸水想定が大幅に広がっており(100年に1度の災害から1,000年に一度の災害を想定に変化)、昨今の気候変動や線状降水帯による予測不能な洪水等が起こりうることなど、状況は変化している。また、2015年の水防法改正により「家屋倒壊等氾濫想定区域」や「浸水継続時間」など、氾濫や氾濫流の影響を考慮した制度が追加されている(「洪水浸水想定区域図作成マニュアル(第4版)」)。本市では2021年改訂のハザードマップに氾濫流が追加された。さらに、病院側も建設当時、災害拠点の機能を強調するものの、浸水への強さを前面にアピールしているわけではない。これらを踏まえた判断が必要である。
(4)DXによる将来変化
数年先にはDX化が進展し、庁舎床面積を縮小できる可能性が高い。とすれば、敷地の広さも多少融通が利くと考える。また、現時点の規模を前提にコスト試算を行うのは適切ではなく、長期的に費用を抑えられるかは示されていない。
(5)都市計画の歪みを固定化
一度建設した市庁舎は半世紀以上存続する。拙速な選択により、市全体のグランドデザインの歪みを50年先まで引きずることになりかねない。
5、まとめ
理由は以上の通りであるが、市民の理解と合意形成を得ながら進めることが不可欠であると考える。
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