「外国人と生活保護」について、皆さんはどれだけの知識をお持ちでしょうか?
ネットでは、極端な例を取り上げて煽ったり、間違った知識に基づいた情報が拡散されているのを散見します。
このページでは「外国人と生活保護」正しい情報を知り、市民の皆様に関心を持っていただくとともに、今後の多文化共生の在り方について議論するきっかけになればと思い、「外国人と生活保護」についてまとめました。
※内容を読まずに、自らの主義主張のみで極端なコメントをすることはご遠慮ください。
記事作成:2025/9/5
【目次】
1.外国人は生活保護を受けられる?
2.外国人が生活保護を受けるのは簡単なのか?
3.外国人が生活保護を受けると不利になる場合もある?
4.まとめ
【外国人は生活保護を受けられる?】
答えはYesです。
どのように認められているのか、法的根拠の説明は少し複雑になります。
・憲法25条及び法律(生活保護法)では、「国民は」と規定しているので、外国人は対象外です。
⇒外国人に生活保護を支給しなくとも違憲や違法にはなりません。
・しかし、旧厚生省(現・厚労省)の通知により、特定の在留資格を持つ外国人に対して行政裁量により準用されています。
・対象とする在留資格は、実務通知・手帳・内部資料により明確化されているいます
(永住者、日本人の配偶者等、定住者、特別永住者、難民認定者)
・これは法的権利ではなく行政措置(恩恵)です
⇒各自治体では、一定の外国人にも生活保護を支給する運用がなされていますが、これに従うか否かの裁量があります。もっとも、現在のところ、外国人に支給しないという運用をしている自治体は見受けられません。
※SNS上では、外国人に生活保護を支給することは「違法」との意見が散見されますが、外国人の生活保護受給権は憲法や法律上認められた権利ではないというだけで、自治体が支給するかどうかは行政裁量の範囲内であるので違法ではありません。このような発言は、専門家からするとただの差別主義者に見えてしまいますので、ご注意ください。
※参考条文等
■憲法25条
第1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第2項:国は、すべての生活分野において、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
■生活保護法
第1条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
■各都道府県知事あて厚生省社会局長通知
一 生活保護法(以下単に「法」という。)第1条により、外国人は法の適用対象とならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて左の手続により必要と認める保護を行うこと。但し・・・以下は、特別永住者等についての手続を規定。
■実務通知・手帳・内部資料
毎年、厚生労働省が作成する自治体向けの「生活保護手帳」があります。これは生活保護の運用に関する基本的なマニュアルで、都道府県・市町村の福祉事務所に配布されるものです。一般公開はされていませんが、保護の対象として、「永住者」「日本人の配偶者等」「定住者」「特別永住者」「難民認定者」が列挙されています。
■最高裁判所判例の立場
・最高裁第二小法廷 平成26(行ヒ)第45号(2014年7月18日判決)
「現行の生活保護法は、『国民』と定めたものであり…『国民』とは日本国民を意味し、外国人はこれに含まれない」
「行政庁の通達に基づく行政措置としては保護対象に含まれうるが、法律(生活保護法)に基づく受給権は有しない」
・平成13年9月25日:最高裁 第三小法廷判決(不法残留と生活保護)
「不法残留者が生活保護法の対象とならないことは、憲法第25条・第14条第1項に違反しない」
【外国人が生活保護を受けるのは簡単なのか?】
答えはNoです。
生活保護をもらえる外国人は永住者等の資格に限られています。
これらのビザは取得要件が厳しい上に、一度生活保護を受けてしまうと、ビザの更新が不利に働くので、皆さんが想像するほど簡単ではありません。
ただし、日本人の不正受給の問題と同じように、本来は資格がないにもかかわらず監視の目が行き届かないという事例はあると思われます。
■外国人の生活保護の受給資格の要件
外国人の場合、生活保護の受給資格は「日本人の受給要件」+「一定の在留資格」が必要です。在留資格以外は日本人と同等の要件になります。
「一定の在留資格」とは、
〇永住者、日本人の配偶者等、定住者、特別永住者、難民認定者
(中長期以上の滞在を前提とするため、人道上保護に値するという考えに基づきます。)
×留学生、技能実習生、短期滞在、不法滞在者等
(社会的定着性がないため、準用対象とされません。)
「日本人と共通する受給要件」は、
1. 生活に困窮していること
最低限度の生活を維持できない状態にあることが必要です。
所得・資産・扶養義務者からの援助の有無などを調査されます。
外国人も日本人と同じく「収入・資産調査」が行われます。
2. 扶養義務者から援助を受けられないこと
親族(民法上の扶養義務者)による扶養が期待できない場合に対象となります。
外国人の場合も同様に、親族(日本国内外を含む)が扶養できるかどうか確認されます。
3. 労働能力の活用
働ける能力がある場合は、就労を優先することが必要です。
就労可能であるにもかかわらず働かない場合は保護対象になりません。
外国人も同じで、在留資格に基づき就労可能なら労働の努力義務が課されます。
4. 他制度の優先利用
年金・雇用保険・児童手当など、他の公的給付制度を優先的に利用することが必要です。
外国人の場合も、日本で加入している社会保障制度を優先的に活用することが求められます。
5. 居住要件
日本人:原則として日本国内に居住していることが必要です。
外国人:在留カードや特別永住者証明書に記載された「住居地」に基づき管轄が決まります。
※居住実態がない者は対象外です。
6. その他
外国人も日本人と同じく、虚偽申告や調査への非協力があれば却下されます。
子どもの教育扶助についても、日本人と同様に「義務教育(小中学校)」に限定されます。
※生活保護を受ける条件自体は日本人と共通ですが、外国人は「法律上の権利」ではなく「行政裁量による準用」であるため、不服申立権がない点のみ大きく異なります。
【外国人が生活保護を受けると不利になる場合もある?】
1. 在留資格への影響
在留資格の更新や変更の際、出入国在留管理庁(入管)は「生活の基盤が安定しているか」を重視します。
生活保護受給中は「自立的な生活能力がない」と判断される可能性があり、更新許可に不利に働くことがあります。
特に影響を受けやすい在留資格:
日本人の配偶者等(婚姻が破綻し、自立していない場合は更新が難しくなる)
定住者(日本での生活基盤が弱いとみなされやすい)
2. 永住許可申請への影響
永住許可の要件の一つに「独立生計要件」があります。
自己または家族の資産・技能によって生活できることが必要であり、生活保護受給中は原則として不許可となります。
法務省の永住許可ガイドラインにも明記されています:
・「生活保護を受けていないこと」が事実上の条件となっています。
・過去に生活保護を受けていた場合も、一定期間(通常5年以上)安定した自立生活を継続していないと許可が下りません
3. 帰化(日本国籍取得)への影響
・帰化許可の要件にも「生計要件」があり、生活保護を受けている場合は原則として不許可です。
・自立した生活基盤を示すことが必須となります。
4. 難民認定者・特別永住者の場合
・難民認定者や特別永住者は、比較的強い在留地位を持っており、生活保護受給だけで更新不許可になることは通常ありません。
・ただし、永住申請や将来的な帰化では同様に不利に扱われます。
5.要約すると
・生活保護を受けても直ちに在留資格が失効することはないですが、
・更新・永住許可・帰化申請において大きなマイナス要素になります。
・特に「日本人の配偶者等」「定住者」「永住申請予定者」の場合は注意が必要です。
【まとめ】
SNS上では、来日してすぐの外国人の集団が一斉に生活保護の申請をして認められたという例を挙げて、外国人に対する生活保護の支給をやめるべきという議論がなされます。
しかし、これは極端な例であり、ほとんどの自治体は先に挙げた要件に照らして支給しています。足利市の場合も、外国人住民の人口比からして支給者の割合はさほど多くありません。国籍や在留資格で言うと、南米の日系人が最多です。
もっとも、今後、外国人の人口が増え続ければ、受給者も増えていく可能性が高いと言えるでしょう。
生活保護費の財源は、国が3/4、市町村が1/4です。
市民の皆さんの税金で賄っているわけですから、関心を持つことは当然の権利です。
ですので、議論の前提として正しい知識を身に着けることが大切です。
【関連記事】
小沼みつよのSNSはこちら
↓ ↓ ↓ ↓ ↓